易経とキャッシュ・フローの沼No2~スカイマーク後編:新しき翼を得た不死鳥(牝馬の貞によろし)~
- 赤田 元日出
- 1 日前
- 読了時間: 8分
1,今回の易経
前回から
易経を交えながら
キャッシュ・フローの分析を始めました。
易経の世界観は
この世は、陽と陰の2つの相対立する気(要素)から成り立っていると考えています。
たとえば、
男と女
堅いと柔らかい
高いと低い
充満と空虚
傲慢と謙遜
など
それを、易の占いでは
陽・・・「―—」(直線)
陰・・・「ー ー」(2つの線分)
という図形で表し、
これを上下方向に6段に重ねて
一つのイメージを形作ります。
そうすると、
1段につき陰陽の2種類がありますから
2×2×2×2×2×2=64種類のイメージが作成されます。
前回の乾為天(けんいてん)は、
6段すべてが陽で表されます。

総てが陽であるため
「(乾為)天」と名称されます。
易経では、このイメージ(卦(け))を
竜になぞらえて説明します。
この竜は
強大、積極性、攻撃性などを表象するわけですが
易経では、
陰極まれば陽になり、陽極まれば陰になるという根本思考がありますので
前回見たように
昇りすぎた竜は、反転、堕ちていくことになります。
易の占いにおいては
陰陽逆転する考えを反映させて
6段すべてを、
陰→陽
陽→陰
と反転させた卦を作成します。
乾為天のすべての段を陰陽反転させると
下のようになり、
この卦を坤為地(こんいち)と呼びます。

乾為天が「天」であるのに対して
坤為地は「地」を表し、対をなします。
性質でみると、
乾が活動的で競争・発展を目指すのに対して
坤は安定的で協調・調和を旨とします。
乾為天が男性的であれば、坤為地は女性的。
女性的であっても、土の香りのする健康的な力強さ、しなやかさ、忍耐強さが背景にあります。
そして柔順の性質を表します。
母なる大地という言葉がありますが
地は万物を生み育てていく慈愛深い育成の徳を持っています。
しかし、
地の万物育成の力は、天の気を柔順に受け入れることによって生じたものに他なりません。
地が自ら単独で進みゆくことはないのです。
易経の坤為地の項には
「牝馬(ひんば)の貞(てい)に利(よ)ろし」
と説明があります。
あたかも牝馬(メスの馬)のように柔和で柔順な姿勢を堅固にとることによって利(よ)ろしい
という意味です。
大地をどこまでも駆ける牝馬。
力強さと逞しさがともに備わっています。
でも決してじゃじゃ馬ではなく、
賢い協調性のある牝馬です。
だから坤為地の柔順と協調は、決して無気力な盲従ではありません。
つづけて、
「先んずれば迷い、後るれば主を得(う)」
と説明されます。
自分が先立つよりも、主たる人に従って行く、順応していくことが
坤為地の本来の在り方であり、
それが最も賢明にして有利なる姿勢である、
と説きます。
2,事例
では、スカイマークです。
2015年1月28日に経営破綻し、同年2月27日で上場廃止しました。
ここまでが前編でたどったしたところです。
その後、民事再生手続きは2016年3月28日に終結。
破綻から5年後となる2020年に再上場を目指しましたが、
コロナの影響で需要が大きく冷え込んだことから上場申請を一度取り下げます。
繁忙期となる夏季の需要が堅調だったことから
2022年8月に再び申請し、
東証から11月10日に上場が承認されています。
(Aviation Wire Corporation.スカイマーク洞社長「ANAは重要な株主」約8年ぶり再上場で関係維持参照)
この辺りの状況を、損益やキャッシュ・フローで見てみます。

第23期と第24期は、キャッシュ・フロー計算書の公表はありませんが、
第23期は、しっかりと利益を計上しています。
第24期は売上は伸びているものの、
コロナウィルスの影響が広まり始めて
赤字に転落しています。
第25期は
コロナの影響下にあり
営業キャッシュ・フローは大幅なマイナス。
投資活動キャッシュ・フローも、機体調達のためマイナス。
上記2つの資金需要を賄うため、財務活動はプラス。
評価としては、「創業回復型」となります。
第26期も、同様に
財務キャッシュ・フローで補おうとしていますが
それでは十分ではなく、資金が減少してますので
「縮小衰退型」です。
第27期ですが、再上場をした年度になります。
現預金は増加しているのですが
財務活動キャッシュ・フローの中身をみると
出資が13755百万円行われて、借入返済が4,000百万円です。
もし出資がなければ、現預金残高は減少していましたので
出資により、資金需要を下支えしたとみることができます。
そのため
「創業回復型」と判断しました。
そして
第28期。
コロナも一段落しています。
営業活動キャッシュ・フローはプラス。
投資活動キャッシュ・フローはマイナス。
財務活動キャッシュ・フローはマイナス。
結果として、現預金は増加していますので
「拡大成長型」に該当します。
また、破綻前は
無借金主義を方針としていたために
重要な時に、「メインバンク」という資金融通の選択肢がありませんでした。
経営破綻後は、金融機関から、借入を行っています。

売上は、コロナ影響中も含めて右肩上がりで増加して
利益も安定し
営業キャッシュフローも急激に好転しています。
しっかりと創出した営業活動キャッシュ・フローで
投資活動キャッシュ・フローや財務活動キャッシュ・フローを賄っていますので
理想的な形といえます。

3,V字回復の要因
スカイマークは、経営が破綻して
民事再生手続きを経て、業績は回復へ向かいます。
その要因をいくつか見てみます。
まずは、前編最後に「謙譲」「謙遜」の気持ちを挙げましたが
具体的には、サービスの質の変化です。
前回も参照した「スカイマークがたった数年で経営破綻した3つの理由」(スカイマークがたった数年で経営破綻した3つの理由 | BizDrive(ビズドライブ)−あなたのビジネスを加速する|法人のお客さま|NTT東日本)を見てみます。
『創業時にスカイマークでは「クレームは受け付けません」と明言していました。それにより「値段は安いけどサービスが不親切」というイメージがつきまとっていたのです。
しかし破綻後は、サービスの向上にも注力。たとえば、ネスレ日本とコラボして、2016年10月より長距離路線の機内サービスで、ネスカフェやキットカットを提供するなど乗客の満足度を向上させるサービスを展開しました。
さらにCAはこれまで乗客の手荷物収納を手伝いませんでしたが、これを改めます。結果、破綻前は83.4%であった定時運行率が、90%に上昇。これまでの「安かろう悪かろう」というイメージも払拭されました。』
乾為天は、「傲慢」という意味合いも持ちます。
料金が安いのだから
利用客は、サービスの質が低下しても我慢するだろう(または、我慢すべきだ)
という、威張った考えが見え隠れします。
経営破綻後は
お客様の目線に立ち、
サービスの中に思いやりの心を新たに加えています。
顧客満足を改善させるのに奏功したと言えるのでしょう。
次に、V字回復の要因として挙げるのは
同業他社との関係です。
記事『スカイマーク洞社長「ANAじは重要な株主」約8年ぶり再上場で関係維持』
を参照します。
『日本航空(JAL/JL、9201)を中核とするJALグループとは、2021年3月28日から乗り継ぎ時の手荷物連帯運送を実施。JALグループとの乗り継ぎがある場合、乗り継ぎに必要な時間を満たしている場合など条件を満たす際に、最終目的地まで乗客が手荷物を預けなおさずに運ばれる。スカイマーク便からJAL便、JAL便からスカイマーク便双方で実施している。』
『洞社長は「ANAは重要な株主で、これまでも再生にあたり大変お世話になった。整備から運航、サービスのあり方など、いろいろとご指導いただいた。ご協力があったからこそスカイマークがある。ANAとは整備部品の融通や、協業の部分がある」と謝意を述べた。』
『「JALとやっている貨物もその延長だが、ANAとJALとはお互い利益を得る部分があれば協力していきたい。基本的に航空運送の営業はあくまでもコンペティター(競合)だが、競争するところは競争し、一緒に出来るところは商売の根幹に響かない形で、これからも良い関係でいきたい」と語った。』
スカイマークは、
ANAやJALのFSC(フルサービス航空会社)や、
LCC(低コスト航空会社)とは
利便性やサービス、価格で差別化し、
「第三極」としてレジャーやVFR(親族訪問)を中心に需要獲得を目指しているため
市場が競合しないANAやJALと連携して、経営状況を改善していったといえる。
4,易経による解釈
経営破綻については、前回、「乾為天」の解釈をみました。
そして、
「乾為天」の陰陽すべてを反転させた卦「坤為地」が、
今回のスカイマークの復活を示唆します。
坤為地は
「主に柔順に従って順応していく」ことがよいと諭します。
スカイマークは、
ANAやJALに、教えを請い、
賢く協調してきました。
そこには、
経営破綻の失意や単なる盲従はなく
賢明は経営判断があります。
大手2社とは、
経営戦略が異なり、結果として市場が重ならないことこから
協調できることは協調し、
お互いにメリットを享受します。
そして、
協調関係のもと
スカイマークとしては
大手2社から有益な指導を受けられます。
まさに柔順にして、賢明。
「牝馬の貞によろし」と言える姿勢で
スカイマークは
難局を乗り切り、V字回復を果たしたのでした。
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