易経とキャッシュフローの沼No4 ~日産自動車の「家人」~
- 赤田 元日出
- 7月27日
- 読了時間: 7分
日産自動車は、
令和7年7月15日に、
創業以来の主力生産拠点「追浜工場」を閉鎖すると発表しました。
日産自動車は、新車販売の低迷などから25年3月期で減損損失を計上し、
6709億円の巨額最終赤字を計上しています。
業績不振の打開に向けて策定した経営再建計画「Re:Nissan」では、
27年度までに世界で17ある車両生産拠点を10に減らすことで
固定費を削減する考えを打ち出しました。
また、
自動車生産能力(中国除く)を350万台から250万台に減らし、
70%程度にとどまっている工場の稼働率を100%近くに引き上げる方針です。
追浜工場は
老朽化して、稼働率も低く
この再建計画の一環として、閉鎖となりました。
では、
日産自動車の経営状態を数字で確認してみましょう。
一見すると、
売上高も堅調で、
現預金残高も安定しているように見えます。

詳細に見てみます。
損益状況です。
売上高は、直前の第125期までは
右肩上がりで増加していますが、
当期第126期は、前期比較で525億円減少しています。
それにつれて利益も赤字に転落しました。

資金状況(キャッシュ・フロー)を見てみます。
売上高は、増加傾向にあったのに
営業活動キャッシュ・フローは先細りになっています。
このことから、
経費支払いの負担が大きくなっていることが分かります。

さらに
フリーキャッシュフローと財務活動キャッシュ・フローに関係を見ます。
フリーキャッシュフローとは、
「営業活動キャッシュ・フロー+投資活動キャッシュ・フロー」の合計を表します。
基本的に、会社の意思により変動できる(フリー)キャッシュです。
このフリーキャッシュフローを元手にして、
財務活動(財務活動キャッシュ・フロー)の返済に充てていきます。
第122期・・・フリーキャッシュフローが潤沢にあるので、財務負債を返済しても余裕があります。
第123期・・・この辺りから、苦しさが見え始めます。
フリーキャッシュフローよりも財務活動キャッシュフローの返済が多くなって
現預金を減少させています。
第124期・・・そして、政策的意図が見え始めます。
フリーキャッシュフローと、ほぼ同額の財務返済になっています。
第125期・・・第124期同様、フリーキャッシュフローと、同額の財務返済となっています。
ただし、フリーキャッシュフローが大幅に減少しています。
第126期・・・フリーキャッシュフローの減少に歯止めがかからずに、
ついにマイナスとなってしまいました。
そのマイナス分を埋め合わせるために、ほぼ同額の借入となっています。
第125期と第126期は
売上高はほぼ変わらないのに
利益はそれぞれ黒字と赤字となり
営業活動キャッシュ・フローおよびフリーキャッシュフローは減少していて
借入返済を進めるのではなく、
資金需要を安定させるために
借入を起こすような状況となっています。
経営の苦しい状況が窺えます。
では、
キャッシュフローについて、部門別(セグメント別)を確認します。

上記セグメント別の内訳において
「自動車事業(及び消去)」は「自動車及び部品の製造と販売」を事業とし
「販売金融事業」は「上記事業における販売活動を支援する」事業を行っている。
自動車事業に注目すると
営業活動キャッシュ・フローが大きく悪化していて
前期6980億円から当期1574億円と
5400億円減少しています。
それを埋め合わせるために
財務活動キャッシュ・フローが6600億円増加しています。
では、自動車事業の悪化の要因を販売台数で見てみます。

2番目の表「前期増減」の当期「第126期」をみると
すべての販売地域(仕向地)において、前年比で減少しています。
3番目の表「前年同期比」で見てみると
日本は、頭打ちから減少傾向にあり
アジア地域では毎年減少しています。

日産自動車は
世界的に販売台数を前年比で129,000台減少させていて、
中でも、アジア地域では、販売台数が毎年減少しています。
日本に至っては、
販売台数が頭打ちになっていて、
当期「126期」は前年比で減少に転じてしまいました。
売上は、世界的な販売台数の減少にともなって苦境に立たされており
経費は、構造改革が早急に求められる事態といえます。
そこで、
易占をしてみました。
「日産自動車は、この1年間で経営状況はどのようになるか」
が占的です。
その結果、
「風火家人(ふうかかじん)4爻(こう)変、天火同人(てんかどうじん)へ之(ゆ)く」
を得ました。

卦は、ちょうど真ん中で上下に分かれていて
上の3つの横棒と、下3つの横棒が
それぞれ「風」と「火」を表しています。
この2つの要素を、組み合わせて
「家人」のイメージが出来上がっています。
この「家人」ですが
火と風の組み合わせ通り、
火があれば風を生じ、風があれば火の勢いも増します。
そのように互いにますます盛んになることから、一家の和合を説くものとされてきました。
また、この「風」は「木」の意味も持っていますので
この場合は、薪木を表します。
火の上に薪木があるので、
火の燃えるイメージを形成して
同時に
これは家の営みになります。
このことから、公に対する私、外に対する内を表します。
さらに、この「家人」の卦を分解すると
内部に「坎(かん)」が含まれています。

「坎」は、問題、悩み、苦しみを象徴します。
これを日産自動車にあてはめると
外部ではなく内部に、問題があると解釈できます。
そして、
易の序卦伝(卦の順番を説明した文章)によれば
「夷とは傷(やぶ)るるなり。外に傷るるものは必ず家に反(かえ)る。
ゆえにこれを受くるに家人をもってす。
家の道は窮まれば必ずそむく。ゆえにこれを受くるに睽をもってす」
と説明されています。
一般に、人が外で身も心も傷つき、疲れ果てて帰ってくるところは
結局家である。
そして、休養して回復すれば
今度は、居心地のよさから、ついわがままが出て、
あげくは家の中で反目して傷つけあう。
要するに、外の世界は厳しく、勝手な甘えを許さないので人は傷つく。
だが内の世界は、逆にやさしく互いに甘えることで傷つく。
そうしないためには
内の世界における勝手な甘えは、それぞれが抑える以外にはないでしょう。
この意味合いを日産自動車の状況に照らしてみます。
日産自動車は、
経営状況が困窮しているために、
2024年末に、ホンダと経営統合計画を発表します。
世界第3位の自動車メーカーが誕生するのか、国内外からの注目が集まりました。
しかし2025年2月、両社は経営統合の撤回を正式に決め、計画は頓挫しました。
日産自動車は
内部に問題を抱えていて(坎)、
それを解決するのに外部のホンダに支援をもとめたのですが、
ホンダに拒絶された(「外に傷るる」)という状況と言えます。
そして、易が言うように「家にかえる」わけですが
内輪で甘えに浸っていては埒があきません。
直後の3月11日、日産自動車は内田誠社長の退任して
新社長イヴァン=エスピノーサによる新体制のもと、
社内のリストラクチャリングとして、経営再建計画「Re:Nissan」を打ち出します。
創業以来の主力生産拠点「追浜工場」を含む車両生産工場の閉鎖、
人員削減、経費削減(固定費・変動費)という抜本的な改革です。
日産自動車は、
今後、この再建計画に基づいて再生を目指していくことになります。
では、成り行きを易で見てみます。
之卦は「天火同人」です。
「同人」とは、志を同じくする者を同(あつ)めることです。
そのようにして同めた者を同志といいます。
真の同志を得るには、求める方も力量、器量が問われます。
人はそれぞれ器量に応じて集まり、あるいは離れていきます。
同志といえども、もとは赤の他人。
これまで全く別の世界で過ごしてきたものが
大勢の中から互いに相手を見出すことで
初めて同志として結ばれます。
そのように結束すると、たちまち強力な威力を発揮するのも
ここにはめぐり合わせというおよそ計算しがたい要因が介在しているからです。
不思議な出会いほどあとになって力を発揮するのです。
「同人」の卦を日産自動車にあてはめてみると
今後、意外な支援者が現れたり
協業したりすることが予想されます。
卦の説明には「同人は、野(や)においてす」とあります。
この場合の「野」は、人里離れた原野を意味しますが
思いがけないところです。
いかにも出会えそうな場所ではなく
とんでもない場所にそうした同志はいると言っています。
実際、
2025年7月11日の報道によると
ホンダと日産自動車は
生産に余力がある日産のアメリカ工場での協業の可能性について協議を進めています。
経営統合を拒絶したホンダが、同志になるのかもしれません。
続報が待たれるところです。
易占いを含めてまとめると、
日産自動車は
社内においては構造改革をすすめ、
社外においては、意外な支援者が現れて
1年後には、V字回復が期待できるでしょう。
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